がんばれ社長!今日のポイント

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10/11/11がんばれ社長!今日のポイント 「続・事件は現場で起きている」

配信日:2010年11月11日

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  経営者用メールマガジン  『がんばれ社長!今日のポイント』
 
  作者: 武沢 信行  2010年11月11日号 VOL.2509 購読者:32,464名

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『続・事件は現場で起きている』


●昨日のつづき。

遅れてやってきたB社長は、俳優の松田優作に似たダンディな若者だ
った。背も高いし、声も渋い、充分すぎるオーラが出ている。
「ウワサの信長かぁ」と思った。

●「お待たせしちゃって申しわけありません。A社長、大変ご無沙汰
しております。さ、こちらにどうぞ」と車を指した。
「どうしましょうか?」という目線を送る私。黒服とのトラブルの直
後なので怒りはおさまっていない。
「とにかく車に乗りなさい」という顔をするAさん。私も従った。

●助手席にAさん、後部座席に私が乗り込む。
高級スポーツカーの革張りシートは硬めで、ボディのホールド感がす
ごい。ガチッとシートベルトで固定すると、高速を何キロで飛ばして
も全然怖くないだろうと想像できた。
そんなことを考えていたら、「Bです、お噂はかねがね伺っています」
と私の方をむいてあいさつされた。

●「さっきの"黒服事件"の真犯人はあなたなんだ!」と内心で思って
いるのでニコリともせずに、「あぁ、そうですか」と低い声でぶっき
らぼうに返事した。
私の愛想のなさにB社長の表情が一瞬こわばったようにみえたが、ま
ったく気にかけなかった。

●そんな空気を察したのか、Aさんがすぐに口をひらいた。
「あなたねぇ、いまお店でちょっと問題があってね、私だけでなくこ
ちらの武沢社長もずいぶんご立腹なんだよ」
「ええっ!問題ですか、店で何かあったのでしょうか」

●近所に行きつけのカフェがあるというので、そこへ向かった。移動
中にAさんが事件のあらましを伝えた。
B社長の表情がみるみる変わる。さっきまでのダンディで柔和な表情
は完全に消え失せ、光秀(明智)に罵声をあびせながらせっかんする
信長のような顔つきになっていた。髪も総毛だってみえる。

●カフェに到着すると携帯で店長を呼び出し事情聴取していた。そし
て、事件を起こした当事者の名前を特定した。日頃から問題のあるL
君だった。

●「申し開きの言葉もございません。ただただ、お詫びするだけです。
申しわけございませんでした。せっかくお世話になっているA社長と
お二人でわざわざ店までお越しいただきながらこの始末、お恥ずかし
いかぎりです。すいません。」とテーブルに頭がつくほど詫びたBさ
ん。

●ちょうど真向かいの位置に座っていた私は、その真剣な目と、一瞬
よぎった苦悩の表情をみて、怒るのはもうやめようと思った。
「いいですよ。ここまでにしましょう。それと、L君をすぐに処分す
るのだけはやめてもらえませんか」とお願いした。

「ぼくは社長の知り合いだ」と威張る客が多いのかもしれない。私は
そんなつもりはなかったが、そう伝えたことがL君の接客を意固地な
ものにさせたのかもしれない。

●「Lの処分については、私が決める問題です。このあと、本人と店
長とで話し合って決めることになります」と言った。
そのあたりキッパリしていた。Bさんが決めるのは当然だが、私との
トラブルが原因でクビになったなんて良い気持ちではないので、「で
きれば穏便に」ともう一度お願いした。

●そのあたりで話題を変えた。

B社長がなぜ10年たらずで"キャバクラ王"と言われるようになったの
か聞いてみた。
「偉そうなことは言えませんが」と前置きしながらも口を開いてくれ
た。Bさんの話を要約するとこうだ。

・・・私を"キャバクラ王"とよんでいるのは一部の人だけです。なに
しろ狭いこの業界、先輩社長のなかで私なんか異端児扱いされている
だけの小僧ですよ。
もともと私はナイトライフの専門雑誌のライター兼カメラマンをやっ
ていて、キャバクラやピンク系の水商売、ホストクラブ、風俗店を毎
日取材と撮影に出かけていました。お店もたくさん取材したし、本社
の社長や役員ともたくさん会いました。その経験から、この分野には
充分チャンスがあると思った。挑戦してみたら本当にうまくやれた。
むしろ想像以上にうまくやってこれました。それだけのことです。
・・・

●「なにが良かったのですか?」と聞くと、お客さん第一の営業に徹
した点にあるという。
それには他業界の営業ノウハウに学ぶことが多かったという。当時、
キャバクラ店の多くはそれほど特別な努力をしなくても儲かっていた。
今から思えば競争環境がゆるかった。うちはまず、スタッフ教育に力
を入れた。たとえば、ホステスに対する接客教育から営業教育(携帯
やメール)、ブログ教育から私生活の管理まで、徹底してホステスと
して一流になるように仕込んできた。その酬いとして、彼女たちにし
っかり稼がせた。基本的に女性はハングリーだから。
やる気のあるホステスはこちらの教育指導にちゃんとついてきて成長
していった。会社としても彼女たちをサポートするためにホームペー
ジの充実、顧客のポイント制度、VIPメンバー制度、携帯予約シス
テムなど、他業界では常識になっている営業ノウハウを総動員してフ
ァンを増やしていった。その結果、業界トップクラスの稼働率、リピ
ート率、利益率をほこるお店ができ店数も増えていった、という。

●「これからもその路線で伸ばすのですか?」と聞いてみたら、意外
な答えが返ってきた。

はじめの頃は、寝食をわすれて仕事に打ち込んだ。それほどこの仕事
が面白かった。おかげで、しっかりお金も稼がせてもらった。だが最
近、もうこれで充分だと思うようになってきた。むしろ、この業界と
は違うところで勝負してみたい。
そう思うようになった最大の理由は「人」である。今夜の黒服事件も
そのあらわれだと思うが、黒服のなり手がいない。黒服をやりたいと
いう若者がいないのだ。中高年まで対象を広げればいるのだが、客層
に合わないからうちは黒服も若手で行くと決めている。だから、なり
手がいない。それに女性ホステスと違ってハングリーさがないので、
教育を厳しくすると辞めていく。現場の店長が一番困っているのが黒
服対策だ。これからは、一緒に経営努力を共にしてくれる仲間や社員
と仕事をしたい。

●私は途中、話をさえぎるように口をはさんだ。

たとえば、「黒服の新卒採用なんてどうですか?」とか、「使命感を
与えれば黒服になりたい若者はたくさんいるはず」、とか、「黒服を
女性ばかりにしてはどうか」など。

だがB社長がそれを即座に否定した。「過去、武沢さんが言うような
ことをすべてやってきたが、いずれもうまくいかなかった」という。

●「できない」と言っていることを「できる」と私が言い張るのも変
なので黙ることにしたが、今でも「できる」と思っている。
肝心な点は、当の社長にこのビジネスへの情熱が失せ始めているとこ
ろにあるようだ。なぜなら、黒服問題を語るBさんの目に力がないの
だ。

●「"キャバクラ王"の次はなにを目指すのか」聞いてみた。

意外なことにその答えは、素朴な外食ビジネスだった。果たしてそん
なのがビジネスになるのかと思ったが、彼に言わせればそれをアジア
諸国に持ち込むのだという。
もしそのビジネスがお隣の中国や韓国などでヒットしたら、いまの、
"キャバクラ王"なんて目じゃないほどの成功をもたらす可能性がある。
だがそれはお金目的じゃなく、一緒に挑戦する仲間が欲しいというの
が真意なのかもしれない。
そんな素朴な外食ビジネスの夢を語っているBさんの目はキラキラし
ていた。

●「今日はハプニングの出会いでしたが、またいつかお目にかかりま
しょう。よろしければ私のメルマガもお読みください」と名刺をお渡
しした。

そのあとBさんは、わざわざA社長のご自宅、そして私が泊まってい
るホテルまで送って下さった。

●翌朝、目がさめたらBさんからメールが届いていた。午前3時の着信
だった。

「メルマガ購読を始めました」ということと、「L君を解雇しました」
とあった。一発で目がさめた。

あれから本人と店長とで話し合ったそうで、「自分は悪くない」の一
点張りだったから解雇せざるを得なかったとある。

「クビかぁ」

残念な結論だったが、価値を共有できない人が社内にいても仕事はう
まくいかないだろう。

●「鳴くまでまとう」ではなく、「鳴かせてみせる」でもなく、「殺
してしまえ」がこのときのB社長の決断だった。

事件は現場で起きている。その現場はトップの思いで動いている。

まだ生々しくて咀嚼(そしゃく)できていないが、忘れられないこの
夏の珍事であった。


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【編集後記】


◆昨日のランチはテレビで絶讃していたハンバーグ店に行きました。
自転車でちょうど10分、行列待ちが15分、料理待ちが10分、食べるのに
15分、帰るのに10分、合計1時間ジャストのランチタイムでした。
もう一度行く価値あり、ということでiPhoneの「食べログ」にブックマ
ークしました。

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