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コンサル出版!『電子書籍にブランディング効果はあるか』第174号

配信日:2010年07月13日


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《今週のCONTENTS》

1.『電子書籍にブランディング効果はあるか』

2.社長が経営に活かす70の実務と戦略【孫子の兵法】のご案内

3.編集後記

………………………………………………………………………………

おはようございます。本多泰輔です。

選挙とワールドカップが同時に終りました。結果、民主党が敗北し
スペインが勝利。ワールドカップで一番凄かったのは、なんといっ
てもドイツの水族のたこパウル君(君というからにはオスなのか?)。
全戦予想的中です。

野球賭博の胴元はぜひスカウトしたい逸材でしょう。単に黄色に反
応してるだけじゃないかという気もしますが、それでもワールドカ
ップ史に残る壮挙だと思います。

世の中いろんなたこがいるものです。

一方、参議院選挙は大方の予想通りでした。なかなか日本国民はい
ずれかの党に全権を許すという行動はとらないようですね。常に連
立を強いる。慎重なのか、混乱を期待しているのか。どうも政治家
より一枚上手のように見えます。

話は替わって、『出版で夢をつかむ方法』(吉江勝著 中経出版)
という本が出てるんですね。このメルマガみたいな本、よく出した
と思います。売れるんでしょうか。

ちなみに中身は、著者サイドから見た出版で、ブランディング戦略
の一環としての出版がテーマのようです。

出版社にアプローチする方法論についてもけっこう細かく書いてあ
りますし、企画書の見本までくっついてますから、相応に役立つ本
だと思います。

必ずしも絶賛できるわけではありませんが、わたしの冴えない電子
書籍『本気で出版したい!と思ったら読む 出版社の本音と攻略法
がわかる本』
http://www.digbook.jp/product_info.php/products_id/11952
と併せて読んでいただくと、さらに効果が高まるのではないかと思
います。あちらは1470円、こちらは800円です。

と、さりげなく(?)PRを済ませたところで本題です。

今年の「東京国際ブックフェア」は、電子書籍フェアでした。

目立ったブースの多くが電子書籍の端末かその関連のもので、電子
書籍の注目度の高さを物語っています。なかには「あれ?」と思う
ものもけっこうありましたが、とりあえずいまは参加することに意
義がある状態で、あっちこっちから参入しているようです。

個人的には中国メーカーの電子書籍端末が面白かったですね。あの
根拠不明の自信は一体どこから来るのでしょうか。


■参加者限定の世界ゆえのブランディング効果

前述の本を例にあげるまでもなく、著者にとって出版は一定のブラ
ンディング効果があると見られています。それは概ねその通りか思
います。

年間8万点の新刊が出るとはいえ出版は狭き門、ステージに登れる
人はごくわずか。デビューが実力か運かはともかく、ステージの登
る人が限られていることに価値がありました。

だからあたかもプレミアムがあるように見え、それがブランディン
グにもつながるのでしょう。

いわば出版は、ワールドカップほどではないにしても全国大会のよ
うなものであり、たとえ一回戦で敗退しようとも全国中継されるし、
本大会へ進出したことが名誉になります。

そして、出版社は本大会へ出場する選手を選ぶ審査員の立場にあり
ます。著者にとって出版社が特別な存在になるのは、彼らが全国大
会への出場資格を独占的に与えているからに他なりません。

出版は、出版社と書店と取次ぎという既得権益者が、勝手に主催し
ている全国大会といえます。書店、取次ぎも既得権益者ですが、著
者に対しては出版社の専権です。

出版界は参加者限定の世界、読者との接点は書店という限られたス
テージだけに存在し(アマゾンも書店のひとつです)、そこでデビ
ューする著者も限られる。

だれでも出版デビューできるわけではない、構造的に制限があるゆ
えに著書にはプレミアムが付きブランディング効果があります。

読者からは、実力か運かは別に、予選を勝ち抜いて本戦に進んだと
いうように見えるからです。著者は選ばれた存在であると(事実そ
うなんですが)。本が出ることに一定の評価を感じる背景は、そう
いうことなんだろうと思います。

もちろん、たまには選んだ側の鑑定眼に疑いを持つこともあるでし
ょうが、たいていは好意的に評価しています。だからといって買っ
て読むわけではありません。買うかどうかは別の動機です。


■開かれた世界の登場

既存の出版界が限られた業者による閉じられた世界であるのに対し、
電子書籍の世界は既得権益者以外にも大きく門を開いた世界といえ
ます。元来、知識というのはだれかが独占するものではなく、あま
ねく広く全体で分かち合うものです。

この考えかたの代表は「青空文庫」(http://www.aozora.gr.jp/
で、著作権フリー、閲覧フリーのネット図書館です。

「青空文庫」の行き着く先は、ネット上の超巨大な図書館で、著作
権フリー、閲覧フリー、そして寄贈フリーの図書館であろうと思い
ます。この形が電子書籍のひとつのゴールではないかと思います。

現在注目されている電子書籍は、紙で製本された本を電子化したも
のというところにとどまり、本が紙からデジタルになり、書店流通
を必要としないダイレクト商品となるものの、供給者が限られてい
ることに変わりはありません。

依然として全国大会の主催者はそのままで、出版界は閉じられたま
まですから、著者として登場するためには制限があり、それゆえそ
こにブランド価値も残されます。

それでも電子化されることで出版界の一部には変化が生じます。
流通が大きく変わりますから、出版界を構成している一角は崩れる
ことになる。一角が崩れれば、やがて全体の崩落が始まるというの
は、歴史の教えるところで、出版界もそのセオリーから逃れられる
とは思えません。

出版界が開かれ、だれでも参加できる、すなわち出版デビューでき
る世界は、もはや著者というだけではプレミアムを失い、これまで
同様の評価は得られないであろうと思います。


■出版界の既得権益が崩れていくプロセス

実際のところは、電子書籍の世界はまだまだ未熟で、今日明日に既
存の出版界に大きな影響を及ぼすような存在ではありません。そう
簡単に行くなら、ネットで本を買うアマゾンのビジネスモデルはと
っくの昔に既存書店を凌駕しているはずですが、アマゾンの占める
割合は全体の1割程度にとどまったままです。

全体の1割を占めれば、一書店としては超大型といってもいいです
が、それでも9割は既存のリアル書店が維持しています。

しかし、どのくらいの時間がかかるかは別として、出版界の既得権
益は確実に崩れていくと思われます。思いつきレベルですが、すこ
しその過程をシュミレートしてみます。

まず既存の出版社は、電子書籍でも引き続き既得権益を保持しよう
と、作品と著者を押さえにかかるでしょう。現在の動きがそれです。
自社ブランドの電子書店を立ち上げる、電子書籍で新刊を発行する、
印税率も上げる。

印税10%では著者自身が電子書籍を発行したほうが有利なので、
著者を競争相手にせずに抱え込むには印税率を大幅に上げるしかな
い。製作および流通コストが大きく下がるので、印税率を上げるこ
とは可能です。ここでの勝負は資本力が決め手です。大手が有利な
のは言うまでもありません。

読者も数多の出版物の中から電子書籍を探すより、限られたサイト
から本を選ぶほうが便利と思うかもしれません。この段階では、ま
だリアル書店と共存しうる状態で、出版の既得権益はまだ守られて
います。

一方、流通の担い手だった大手書店も前後して電子書店に参入して
くるでしょう。取次ぎとの連合軍かもしれません。彼らには手持ち
のコンテンツがありませんから、資本力に物を言わせ、人気作家を
出版社と奪い合うことになります。

読者は著者・作家につく存在ですから、どこから本が出ようと関係
ありません。出版社は「見せ方」に一日の長がありますが、そのく
らいの技術はカンタンに真似できます。見せ方には著作権がありま
せんから、そこで差をつけることはできません。

いきおい人気作家・有名著者の価格は高騰します。

そして、印税率は超高率の人気作家・有名著者とほとんどないに等
しい無名の著者に二極化します。同様に、売上もわずかな人気作家・
有名著者が全体の8割を占め、その何百倍はいる無名の著者の作品
は残り2割に埋没してしまう。

しかし、必ず新人著者は出てきます。
電子書籍をつくり販売するためのアプリケーションが増えれば、個
人で出店することが容易になり電子書籍は急速に増加するでしょう。

恋愛小説、推理小説、青春小説、あるいは話し方、勉強法とジャン
ルごとの検索システムも飛躍的に充実する。

新人は個人出店や無名のサイトから現れるでしょう。もはや価格も
バラバラです。

この段階で出版界は参加者の限られた世界から、だれでも参加でき
るエントリーフリーの世界に変わります。


■開かれた世界で

出版社の持つ機能で最も肝心なのは、実は販売機能です。本をつく
って流通させる機能こそ出版社の既得権益なのです。それ以外は格
別重要な機能はありません。

出版が開かれた世界になるということは、いままで独占していた本
をつくって流通させる機能が開かれてしまうことです。ここで既得
権益を失えばもうアドバンテージはありません。

編集機能が強調されますが、編集機能なら編集プロダクションにも
あります。広告会社にだってある。印刷所でも気の利いたところな
ら編集機能を持っています。能力のほどはまちまちですが。

出版社の編集とは、つまるところ作家・著者の能力を見抜く力と企
画力、それに若干の構成力です。デザイン・レイアウトは表に出て
くるので重要に見えますが、見せ方の技術は前述したようにいくら
でも真似ができます。

出版が開かれれば、作家の発掘は編集者の手から離れてしまいます。
企画力も膨大な量の出版物の中では、必ずどこかに似たようなもの
は存在しますから、独自性を発揮することは困難。構成力はそもそ
も看板になることのない地味なものです。

電子書籍がもたらす出版界の開放は、出版者をして、近くにできた
大型スーパーを横目に「うちはここで3代やってんだ」と嘯く小さ
なお店と同じ位置に追い込んでしまいます。

そこで著者はどうなるか。

電子化が進んだ出版界に確実に残るのは、読者と著者です。しかし、
その輪郭は巨大すぎてどちらも描くことができません。したがって
著者であるというだけでは、ステータスとならず、読者の多い本の
著者だけがステータスとなります。

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